奥泉 退団のお知らせ

奥泉よりメッセージ

露と枕、退団について

電撃★退団でございます。そうでもないのでしょうか。目立ちたがりな私でありますので、この報せが幾許かの衝撃を生んでいなかった場合、少しばかりの無念が残るというものです。先手を打って段落ごとの縦読みをネタバラシすると、「でこほげいとくい」になります。私の心に巣食う妖怪の名前です。


こういう、節目のタイミングでは、何かこう、誰しもが、その理由や経緯について語るものですが、語らねばならないという風潮は、あまり得意ではありません。現代っ子なので。不干渉を美徳とするのが現代の流行であるはずで、私もそれを良しとしております。人はしばしば言葉なく去っていくものですし、そこがゼロであるので、ゼロがゼロであることをマイナスと捉えるのは、私にとって損が勝るのです。とはいえ、私は語りたがりであるがゆえ、多少、語ります。


方向性の違い、という言葉が最も相応しいでしょう。人生で一度は言ってみたかった文言なのですが、まさかここで使うとは。しかも、この期に及んで。ちなみに私は、行けたら行くと言って本当に行けたら行くタイプの人間です。


厳密ではなくですが、露と枕は私が演劇を始めた場所であります。少なくとも私が奥泉哲郎というフルネームから名前を削りとった最初の出演が2017年12月の『白に色づく』でありますし、厳密に言うとしても、私の初舞台は井上瑠菜から始まっています。当時、それはもう、ここからやっていくのだと息巻いていました。公演を打つごとに、団体としても個人としても、一つずつ何かを得ていくことに浮き足立っておりましたし、毎公演が必ず大切なものでありました。


一方で、私が信じ込んでいる座標軸との僅かなズレみたいなものもまた、当初から少なからず感じていたようです。しかし、子が親を選べないように、選択肢を持たなかった私は、ひとまず邁進することを心に決めていました。そして時間の経過とともに、私はここの人たちに血縁に似た愛着を抱くようになり、今に至ります。


ところがどっこい、居心地が良くなりきってしまった今、曖昧な焦燥が、幸いを朦朧とさせてしまうのです。この実家はそろそろ出ねばならぬと、思い立ってしまいました。一瞬の痛みを以て、そこから先は、いつだって関係のないものになっていきます。それが怖くてたまらなかったのですが、折り合いとか、つけていきたく存じます。


口にしたものから嘘の気配をまとってしまうのが世の常ですが、何かしらの事件やら事故やらは、とりたてて起きていません。いえ、起きたとしたら私が犯人である可能性が高いのですが。もしかしたら無自覚なだけで慢性的に事件を起こしているかもしれません。迷惑とかは、確実に各所へかけております。なしくずし的に許してもらったり、許されてなかったりします。申し訳ございません。5年分、まとめて申し訳ございませんでした。僭越ながら、めちゃくちゃ楽しかったです。勝手に思い出です。思い出に、なってしまいました。


いやはやなんだか、そんな感じでございます。感謝しております。これまで露と枕で共演した方々、長いことお世話になっているスタッフの方々、劇団員(私より先に辞めてしまった人も含めて)(優劣はつけられないながらも、しかしやはり、特に小林桃香)(彼女の名誉のために言いますが、我らはとりわけ仲良しなわけではないです)、そして日頃より応援してくださる皆々様、ひとえに、ありがとうございました。今後とも、露と枕や奥泉などをよろしくお願いいたします。


令和4年12月30日

奥泉


井上瑠菜よりメッセージ

平素よりお世話になっております。井上瑠菜です。

本人からお知らせありました通り、奥泉が退団する運びとなりました。


私の隣の家には、日曜日の朝だけやたら吠える犬が住んでいるのですが、とにかく声がおおきいやつでして。楽しそうにしているときもあれば、すっごい怒ってるときもある。めちゃくちゃ大型犬っぽい声で吠えるので怖くて仕方ありません。ただちょっと近づいてみたら思ったより大きくなくて、精悍な顔立ちでした。おもしれーやつです。


たいてい私は、昼夜逆転して朝方布団に入った瞬間にその声を聞いてイライラしたりしてるんですけど、通常の生活を送っている人からしたら普通に起きてる時間帯なんですよね。私の方が間違ってるんですよ、うるさいなってイライラするときは、大抵。まあ隣の家のご主人にも「うるさい」って怒られてるのよく耳にするけど。起きてる時間でもうるさいもんはうるさいか。


あ、あと、すごい可愛がられてます。うるさいって可愛いんです。隣のご主人の「うるさい」にはいつも愛があって、それを聞くのはちょっぴり好きです。まあ、犬は怒られても鳴きやまないんですけどね。


奥泉も大体、そういうやつです。


ちょっと違うのは、言葉を使うっていうところでしょうか。奥泉は奥泉の文法と、こだわりを持っています。人それぞれ文法もこだわりも違うし、私だって結構変だけど、より濃いものを持っているなって思います。


だから私も奥泉の言葉に「ん?」ってなること多かったし、奥泉も私の言葉に「ん?」ってなること多かったでしょう。私はそういう「ん?」が面白かったり楽しかったりしたので、退団してしまうのはけっこう寂しいです。違う文法だから救われたこともあったし、うるさくて助けられたことも何度もありました。


ただ奥泉はちゃんとこだわりどころを見つけて、今回の決断を下したと思うので、私もよりしっかりとこだわっていきたいなって思います。


5年間、お疲れ様でした。ほんとにたくさんありがとう!

健康と金には十分気を付けて!!!!! またね!!!

今後とも、露と枕と奥泉をどうぞよろしくお願いいたします。


令和4年12月30日

井上瑠菜


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