#つゆまつり2020 その二、『煙霞の癖』のはなし

どもども井上です。

先日は長文失礼しました。今日も長いですよ。ヨロシクネ


今日から過去作品振り返りを始めます!!(いえ~~い)


5月1日は、最新作のVol.3『煙霞の癖』について。


ざっくり概要をご説明したら、「初級編」「中級編」「上級編」で振り返っていきたいと思います。

  • 初級編🥚は、露と枕を観たことのない、または煙霞の癖を見逃してしまった方々へ。どんな雰囲気だったか、ご紹介します!
  • 中級編🐥は、煙霞の癖を観た皆さんへ。印象的な台詞や見どころなど、振り返っていきます。
  • 上級編🐓は、ちょっとコアなお話をします。裏設定とか裏話とか。


というわけでいってみましょう~~!




〇ざっくり振り返り

2019年11月13日から19日まで、大隈講堂裏劇研アトリエで上演されました、露と枕Vol.3『煙霞の癖』。

“えんかのへき”と読みます。意味は、深く自然の風景を愛する習性のあるのを、久しくなおらない病にたとえていう語。です。


▼舞台設定

 短くまとめると、1960年頃、都市伝説的な山の麓の田舎村で、土地の権利が云々とか、結婚が云々とか、上京して夢をかなえたい女の子が巻き込まれてつらい思いするよ、っていうお話でした。そんな生ぬるい話でもなかったですが。


 詳細はこんな感じ。↓↓


 舞台は1960年頃、とある山麓の村の最北に位置する草山地区。地区の多くを占める「草山」と呼ばれる山は、一定以上の大きさの動物が住まず、足を踏み入れると病気になって死んでしまうと噂され、「死山」と蔑称されている。
 草山地区の中心部には、村で唯一の診療所、草山診療所がある。男性は皆都心へ出て行ってしまい、女医や看護婦ばかりの鬱屈とした場所だ。所長は村の有名な地主の家系に生まれた長男、草山深司。彼は素行の悪さから草山地区へ飛ばされ、死山に住む家の養子に入った。
 死山に住む一家は、父と娘だけであったが、深司が養子に入ってすぐ父親は病死、家も火事で燃え尽きてしまう。残されたのは娘の亜香子だけであった。
 亜香子は自然を愛し、死山を愛していた。東京へ行って登山家になるという夢も持っていた。ただ、蔑称される山へ出入りする娘を、地区の、村の者たちは快く思っていなかった。
 そんな中で結婚話が出たことをきっかけに、彼女を取り巻く環境や、深司からの束縛が浮き彫りになっていく。
 彼女が地区で生き、東京へ行くまでの約二年間を綴ったストーリー。



 長い……。長いですかね? 設定がとにかく長い……ですね。

 公開したあらすじはこちら。


 相関図はこんな感じでした。



▼モチーフ

 この作品は、古典作品『とはずがたり』から着想を得ていまして、自分なりに解釈したうえで再構築いたしました。

 『とはずがたり』は鎌倉時代の後期、まさに南北朝時代が始まろうとしている最中の鬱屈とした宮中の、院のいわゆる召人(主人と男女の関係にある女房)の日記です。ていうか、奔放な院や自分の恋愛遍歴についての暴露本……みたいな感じですかね。それだけじゃないんですけど。

 結構赤裸々です。ちょっとMetoo的な場面もありますし。「私またヤっちゃったやん……」みたいなことも書いてあります。

 高校生くらいの時から大好きな作品でして、いつか演劇にしたいなあと思い続けていたので、念願かなって、といった感じでした。



▼劇団公演として

 Vol.0から久しぶりに、劇団員、準劇団員の全員が出演する作品でした。

 人数もちょっと多めで、13人。楽しかったです。




〇初級編🥚

 さてさて、初級編です。

『煙霞の癖』を観ていない方々へ、ストーリーや雰囲気を知ってもらえればと思います。


 この物語は色んな要素がありますが、無理やり分けるとすると、

①亜香子の東京へのあこがれ

②亜香子と男たちの関係の変遷

③亀山地区(村の中心部)の土地開発の話(死山の“病気”の蔓延)

 大体この三つが並行して動いていく、みたいな感じの物語です。

 基本的にその中心にいるのは亜香子と深司の兄妹です。追ってみましょう。



▼①亜香子の東京へのあこがれ

 主人公、亜香子は死山で育ち、死山を愛し、自然を愛しています。

 現在は義理の兄の深司が所長を務める診療所の手伝いをしていますが、抜け出しては山へ遊びに行ったりしています。

 しかし死山は前述した通り、「入れば病気になる」という言い伝えのようなものがあるので、地区の人たちに亜香子は煙たがられています。


 そんな中で、亜香子の味方は二人。

 一人目は、幼馴染で東京の大学へ行っていた、雪村です。

 彼は東京の大学を卒業後、村に帰ってきて、深司の元の家(村で有名な地主の家)・亀山家の不動産で働き始めました。

 村に帰ってきた際には一番に会いに行ったり、夜深くに山に入った亜香子に会いに来て話を聞いたりしながら、東京の話をしてくれるいい男です。



 そして、もう一人。診療所に入院する西田です。


 彼女は東京で仕事をしていたことがあり、それも当時女性にしては珍しい登山家でした。

 山や自然が大好きな亜香子は、彼女の話をたくさん聞きに行って、自分も東京に行きたい!という夢を募らせます。



▼②亜香子と男たちの関係の変遷

 しかし亜香子が東京へと夢を抱いている最中、亜香子へお見合いの話が舞い込んできます。

 亜香子の叔母・顕江の昔馴染みの、有馬です。


 診療所に来た時、亜香子に一目ぼれした、ということでした。

 亜香子は見合いに応じながらも結婚する気は全くありませんでした。普段通り山へ行ったり西田の元へ行ったり自由です。幼馴染の雪村ともいい感じの雰囲気になります。



 が、ある時結婚を決意せざるを得なくなります。それは義理の兄の、深司の一言でした。

 彼は女癖がとにかく悪いことでも有名で、それが理由で亀山家を勘当された過去があります。にもかかわらず草山地区でやりたい放題女を食っています。婚約者もいるんです、看護婦長の二葉という婚約者が。でも診察に来た患者にも手を出す。かなりの女好きです。

 その女好きは、義理の妹である亜香子にもそうでした。深司と亜香子の間には、愛ではない不思議な絆があり、切っても切れません。


 結婚をせざるを得なくなった亜香子ですが、やはり本当はしたくありません。しかも前夜に深司に求められ、結婚当日になって死山へ逃げ出してしまいます。有馬はそんな亜香子を追いかけてきますが、亜香子は話を聞かない有馬に苛立ち口論になります。


 そこでどこか打ち解け、亜香子は結婚を受け入れることにしました。




▼③亀山地区(村の中心部)の土地開発の話(死山の“病気”の蔓延)

 で、結婚がうまくいったかというと、そうではありません。

 話はそこから一年飛び、草山地区の状況は一変しています。


 亜香子の結婚話が進むにあたって、実は同時進行で亀山家の土地開発の話も進んでいました。死山を開発して大きな工場を作ろう、という動きです。死山の土地の所有者は、亜香子の父から深司に譲り受けられたので、深司です。亀山家vs深司みたいな、そういう物語もひそかに進行しています。

 物語に出てくる亀山家代表は、深司の弟です。怖い婚約者のお姉さんも首を突っ込んできます。




 結局深司は山を譲ってしまいます。草山地区での女遊びが亀山家の耳に入ったことがきっかけで、精神的なプレッシャーが亀山からかかり、自暴自棄になって山を譲ることにしました。亜香子に結婚を強要したのもその自暴自棄が大きな要因です。



 ちょっと話がそれましたが、そういうわけで、亜香子の結婚から一年、山は開発され工場の建設が始まっています。ただ、隣に有馬の姿はありません。

 彼は亜香子を追いかけて死山に入った結婚当日から体調を崩し、奇妙な病気に罹って死んでしまいました。噂だとおもっていた「病気になる」が本当だと信じ切った地区の人たちは、亜香子を病原菌扱いし始め、深司は亜香子を家に閉じ込めるようになります。


 それでも亜香子は死山に足を運んで、そんな亜香子の味方は雪村だけになってしまいました。西田は一年の間に病状が悪化して死んでしまったので。

(ちなみに西田は全然違う病気です、何となく破傷風をイメージしていました)



 そんな雪村も亀山家の開発事業に関わるうちに、有馬と同じ「病気」になってしまいます。


 病床についた雪村に今までの我慢や不自由をようやく吐露した亜香子。雪村からはじめて愛の言葉をもらって、村と別れ、東京へ行くことを決意します。




 ……大体こんな感じのお話です!

 そういうお話が主には、診療所の裏口にある喫煙所の井戸端会議で話が進みます。

 「煙草場」と呼ばれていました。

 ここで看護婦や地区の女たちが、その時々にホットな悪口を言いあっています。そんな中で、状況がじわじわ変化していくのを味わいながら、人々の深淵を覗いていく、そんな作品でした。





〇中級編🐥

 はてさて、盛り上がってきましたよ。私が。

 中級編は観たことのある方へ。見どころや台詞を振り返っていきましょう。


▼ラストシーン

 『煙霞の癖』は静かに積み上げていくようなお話でしたので、やっぱり一番の見どころは雪村との最後のお見舞いのシーンではないでしょうか。

 ラストシーンとよんでいます。亜香子が帰ってくる最後のシーンは、エピローグとよんでいます。


 このシーン、初稿からあんまり変わってないです。最初の読み合わせで「これは井上っぽい」ってみんなに言われました。抜粋です。


亜香子 ……しんどい。もう、しんどい、もう、嫌だ。……もう嫌だ、やだ、全部、嫌い、消えろ、みんな消えろ、消えろ、全部! 全部! 全部!!
雪村 ……。
亜香子 全部……、全部みんな、私……私が消えれば。
雪村 ……。
亜香子 明宏じゃなくて、兼ちゃんじゃなくて、私が。私のせいで。
雪村 ううん。
亜香子 私ばっかり。もう、生きたくない。
雪村 ……。
亜香子 生きたくないよ。


 前後にも良い台詞はたくさんありますが、雪村の「ううん」を挟んだ、「私のせいで」から「私ばっかり」の転換がお気に入りポイントです。

 何かあんまり具体的なことを言いたくないなあ、って思って書いたので、これだけ読んだら何?って感じなんですけど、亜香子役の葵と雪村役の大駿がまあ良くて。とても素敵なシーンになっていたと思います。


 でですね、ここから音楽が入ります。ここの音楽が本当に素敵で。そこから暗転までこんな感じでしたね。


亜香子 兼ちゃん。
雪村 ん?……
亜香子 私、東京に、行きたい。
雪村 ……うん。
亜香子 兼ちゃんと一緒に、東京で生きたい。……
雪村 うん。
亜香子 だめかなあ?……
雪村 ……ごめん。
亜香子 ……。
雪村 ごめんな、亜香子。
亜香子 ……兼ちゃん。
雪村 でもずうっと、好きだった。
亜香子 ……。
雪村 ずっと、好きだよ。だから、……
亜香子 ……。
雪村 ……なに?
亜香子 いまになって、そんな。
雪村 うん。
亜香子 勝手な。……勝手だ、兼ちゃん。
 亜香子が少し微笑むと、雪村もつられて笑う。
 病室の電球が静かに消え、ゆっくりと死んでいく。暗転。


 ね。これを見ると「勝手だ。山も、あなたも、私も。」というキャッチコピーが「へー」って感じですね。

 良いですよね。もっかい見ときますか。はい。




▼有馬最後のシーン

 ……も、ありますね。基本的には有馬役の遼太郎に任せていた部分が多く、ウケとれたら勝ちみたいな気持ちに私もなっちゃってたんですけど、(笑)

 亜香子の心を素で開いていった強者でした。何か心に残っているという方も多いかもしれないです。やっぱり有馬はここですかね。


有馬 お父さん! 亜香子さんは僕が幸せにします!
亜香子 ……。
有馬 怒らせちゃったけど! 泣かせないので! よろしくお願いします!
亜香子 ……ばからし。


 ここでうちの家族は泣いた……らしいです。心に刺さる素敵な好青年、有馬くんを好演してくれました。



▼煙草場のシーン

 やっぱり『煙霞の癖』のイメージは、灰色の床で女たちが煙草吸いながらしゃべっているイメージが大きい人も多いと思います。


 私好きなの、珍しく女子トークしてる時です。深司の婚約者、二葉(絹川鈴)が深司と縁を切ろうと決意し、道端でナンパされたので舞い上がってた時に、パッと高塚(中野華子)がやってきて、

高塚 ねえ、聞いて。さっきねえ、知らない人に声かけられて。
二葉 え?
高塚 最近、変なのがあたりうろついてんのね。市の方の。綺麗ですねっていきなりよ、気味悪くって。
兵部 (二葉の方を見る)
高塚 名前聞いてきて、怖いから逃げてきちゃった。
兵部 美代ちゃん。
高塚 何? どうしたの?
二葉 私聞かれてない、名前なんか……。
兵部 ふ、二葉さん。
二葉 ……やっぱり、深司……
兵部 二葉さん。正気保って。
二葉 だってやっぱり私今から新しい男なんか、無理よぉ。
兵部 言ってたじゃない。もう縁切ってやんのよって。
高塚 どうしたのよ。
兵部 あんたが余計なこと言うから。

 っていうとこですね。ここの二葉が可愛いんですよね。

 女子-ズは憎ったらしい口聞くこと多いし、くたびれてるし結構闇が深そうな人も多いですが、人が増えれば増えるほど明るくなるのが演出しててとても楽しかったです。




〇上級編🐓

 ここからはちょっと細かいお話。裏話、裏設定など話していきます。


▼オーディションしました

 知ってる方は知ってるかもしれないです。配役、全員オーディションで決めました。

 9月初旬から稽古を始め、10月1日に配役を決定するために、ずっと初稿を使って稽古してました。色々試せて楽しかったです。


 個人的にとても迷ったポイントは、

  • 西田行乃 北原葵説(いつか大人の葵をお見せしたい本当に素敵だった)
  • 西田行乃 佐野芹奈説(本当に音が良くてすごく胸が締め付けられた)
  • 草山亜香子 小林桃香説(深司の月館との絡みを筆頭に、何かエロくてすごく良かった)
  • 草山亜香子 澤あやみ説(自由人ぶり・ラストシーン共に圧巻だった)
  • 東二葉 村上愛梨説(強がり可愛いやらせたらやっぱり最強だった)

 以上五説です。


 もちろん本役にもたくさん良きところがあったので決めましたが、いや~~~~~~結構悩みましたね。女性陣。ちなみに男性陣はみんなスコーンとはまりました。深司役・月館森がハマり役過ぎて、爆笑です。性根腐りすぎ。クズ過ぎる。これにて役者はと言っていたので、良い役を用意できたのではないかと、個人的にとてもうれしく思っています。



▼昭和と田舎ってやばい

 結構しんどかったのが、口調と時代背景です。

 まず何か方言にするかといっても、私が茨城県民ですがネイティブじゃないので、うまく演出出来ない、とか。茨城弁にしようと思ったんですが途中で断念し、「語尾を投げるみたいな喋り方」で、悪戦苦闘しながら演出しました。

 なので、違和感あった人は結構いたんじゃないかと。悔しいです。また挑戦したいですね……。


 あと時代背景です。昭和三十年って何があって何がないんだ?! みたいなので結構試行錯誤してました。昭和三十年牛箱ないんですよ。舞台美術にしようとして断念しました。(ちなみに時代考証を佐野芹奈ちゃんがやってくれました。「これある?!」って言ったらすぐ調べてくれて本当に助かりました)


一気にやるもんじゃないですね……やるからには下調べ・スケジューリング共に余裕を持たねばならないなと、強く思いました。




▼裏設定など

 最後です、裏設定。

 パンフレットにも裏設定集を載せましたが、今回は初稿で消えた設定・シーン集です。


  • 兵部(小林桃香)が亀山(奥泉)の愛人
  • 結婚を機に亜香子(北原葵)が二葉(絹川鈴)と仲良くなるシーン
  • 深司(月館森)、亜香子につらく当たったり急にあたったりはるかに情緒不安定
  • 兵部(小林桃香)と高塚(中野華子)は、二葉(絹川鈴)と表面上仲良くしつつも滅茶苦茶バカにしてた


 一番上の設定草ですよね。血争えなさすぎ。

 初稿結構面白いんですよ、今読むと。起伏激しいし展開ぶっとぶし。みなさんのご興味と機会があったら是非わいわい初稿読む会とか開きたいすね。


 以上です!今日も長!!!

 円盤化されていないので、もし興味を持ってくださった方へお渡しできるとしたら、パンフレットか台本のみなんですけど。

 公演があるときは販売もしますので、是非お立ちよりくださいね。



 あ、あと、露と枕の台本販売に関しては、上演が終わった公演の台本すべてに、スピンオフを掲載させていただきます。鋭意執筆中ですので、『煙霞の癖』を観た方も、ぜひぜひ次の公演の物販にお立ち寄りください!!

 多分、雪村の大学時代を掲載します。よろしくお願いします。





 ここまで読んでくださってありがとうございました。

 明日は劇団髄一の問題作であり、東阪二都市ツアーを開催、おうさか学生演劇祭Vol.12で三つの賞を受賞した、🌸露と枕Vol.2『春俟つ枕』🌸を振り返ります。

 良かったらチェックしてみてくださいね!

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