#つゆまつり2020 その四、『ビリー・ミリガンの毒薬』のはなし


 はい! 井上瑠菜です!

 今日私の母校が爆発する夢を見ました。夢占いによると、フラストレーションが溜まっているようです。何かやっぱりカラオケに行きたいですね。なので、家でめっちゃ歌います。



 本日は💧露と枕Vol.1『ビリー・ミリガンの毒薬』💧の振り返りをやっていきたいと思いま~~~す。

(前回までの振り返りはこちら)

その一、私たちのはなし:露と枕という劇団についてと、劇団員紹介

その二、『煙霞の癖』のはなし:2019年11月の第三回公演、『煙霞の癖』について

その三、『春俟つ枕』のはなし:2019年3・4月の第二回公演、『春俟つ枕』について



 昨日と引き続き、ざっくり概要をご説明したら、「初級編」「中級編」「上級編」で振り返っていきたいと思います。

  • 初級編🥚は、露と枕を観たことのない、またはビリー・ミリガンの毒薬を見逃してしまった方々へ。どんな雰囲気だったか、ご紹介します!
  • 中級編🐥は、ビリー・ミリガンの毒薬を観た皆さんへ。印象的な台詞や見どころなど、振り返っていきます。
  • 上級編🐓は、ちょっとコアなお話をします。裏設定とか裏話とか。


 ではいきましょう~~!



〇ざっくり振り返り

2018年8月10日~12日にシアターグリーンBASE THEATERにて上演しました、Vol.1『ビリー・ミリガンの毒薬』。

 ビリー・ミリガンは、アメリカ合衆国生まれの男性。オハイオ州の強盗強姦事件で逮捕・起訴されたが、彼は解離性同一性障害(解離性同一症)を患っていると主張、裁判で解離性同一症と事件の関わりにおいて注目され、有名になった。【引用:Wikipedia



▼舞台設定

 短くまとめると、精神病が医学的に治せるようになった近未来、解離性同一性障害の少女・芹沢遥が、主人格と別人格同士で愛し合っているのを、周りの大人が信じずに治してしまうっていうお話です。


 詳細こんな感じ。


 精神病が外科手術・投薬どちらでも治療可能となった近未来。外科手術では完治が可能なものの後遺症が残ることも多く、投薬では記憶を消すことしかできない、そんな医療が発展している最中の話。
 舞台はそんな世界の、川のせせらぎが聞こえる田舎町で、心療内科の老医師の変死体が発見されたところから始まる。彼の脳は、溶けていた。
 その田舎町には、老医師の昔の担当患者が住んでいた。患者の名前は芹沢遥、19歳。9歳の頃に解離性同一性障害を記憶を消す薬で完治し、田舎町にある大学に通っている。辺鄙な田舎町と老医師の共通点は彼女だけであった。
 老医師の愛弟子であり現在は製薬会社に勤める朝倉は、老医師を弔うために田舎町へと足を運ぶ。そこで、遥が未だ解離性同一性障害を抱え、別人格の「カナタ」という少年が自分たちの前に現れている人格だということを知る。
 どうしても一緒に生きたかった、少年と少女の物語。



 はい! SF系はこれだけですね、露と枕。あらすじこちらです。

 相関図はこんな感じ。




▼テーマ

 このお話は、基本的には「芹沢遥」が見ている世界と、周りの人間たちが見ている世界を両立させて進んでいきます。結構スタンダードに、老医師が死んだのは何故なのか、朝倉が真相・事実を追いかけながら、「芹沢遥」の中で起こっている心情や関係性の変化みたいなものを見せていく、感じです。


 キャッチコピーは、『私の愛する私を殺す毒薬で、私を殺してほしいのです。』


 主に語られるのは「記憶と肉体」です。媒介としてを主に取り上げています。

人体の70%が水なので、水に関する記憶とか、「記憶を消す薬」自体を水と強く結びつけることで、記憶と肉体を連結させる。そんな感じでした。


 なのでテーマカラーは【水色】です。みんな青とか水色の衣装なんです可愛いですよね~~

 あとやっぱり夏にやったのですごい夏~~~~って感じの作品でした。話重いけど爽やかだし、水の音結構鳴ってたので、何か涼しい!って感じ。(春俟つ枕とは打って変わって!)




▼賞レースの参加

 露と枕第一回公演にして賞レース参加しました。

 とはいえ、ちょっとうちの旗揚げ形態は特殊で、結成自体は2017年の秋ごろにもうしてたんですけど、早稲田大学演劇研究会内で旗揚げとなると審議があったので。審議通ったのが2018年4月29日だったわけです。(旗揚げ公演二回やったし、笑)


 シアターグリーン学生芸術祭(SAF)Vol.12へ参加させていただきました。

 長編部門で参加しまして、月館森が制作でスタッフ賞を、劇団としては最優秀賞をいただきました!(いえ~~~い)




〇初級編🥚

 さてさて、初級編です。

『ビリー・ミリガンの毒薬』を観ていない方々へ、ストーリーや雰囲気を知ってもらえればと思います。


 もう一度世界観をおさらいすると、

  • 脳医学が発達した近未来
  • 精神病を医学的に治療可能である
  • 外科手術は根治可能だが後遺症のリスクが大きい
  • 内科的治療は長期の投薬で、記憶を消すことしかできない

 という感じです。


 ストレートなお話なので、普通に起承転結で話していきますね!!

  1. :朝倉との再会と先生の事件
  2. :「カナタ」の正体と決意
  3. :変死体事件の真相
  4. :治療後の「芹沢遥」


 あ、あと、「カナタ」役の須藤さんが、序盤の方、『芹沢遥』という女子大生として扱われてるので、彼は、女の子です。登場人物から見たら。それだけ頭に入れておいてください。

 ではまいりましょう~~!




▼①起:朝倉との再会と先生の事件

 まずは「芹沢遥」の日常から描かれます。

 彼女が見ている夢の中。「カナタ」という少年と、「ハル」というおよそ歳に似つかわしくない幼い喋り方をする少女が出てきて、汚れた手をふきながら、なんだかいちゃついています。

 そこに現れる女性、朝倉里英。朝倉は、「カナタ」を遥ちゃんと呼び、ハルはカナタの影に隠れています。なんだか追い詰められている様子のカナタ。話しているうちに、徐々に朝倉がカナタのことを「芹沢遥」として扱わなくなり、詰め寄ってきます。


「カナタくん。その身体、遥ちゃんに返してあげなよ。」


 カナタは去ろうとする朝倉のことを引っ張って倒し、胸倉をつかんで、僕はハルの一部じゃない、と主張します。そのままカナタは朝倉の頭を水の中に突っ込みました。




 カナタが不思議な夢から覚めると、自分が一人暮らしをしているアパートの一室でした。

 芹沢遥は、田舎町に一人暮らしする大学生。夏休みの真っただ中であることを思い出します。そして、遥の母代わりのような養護施設の職員、栗林燈子が前触れなくやってきていることにも気づきます。


 カナタは自分が燈子に「遥」と呼ばれていることに安心し、一緒に朝ごはんを食べます。

 ちょっとした親子喧嘩を経て、カナタは用事を思い出し、慌てて出かけます。



 出かけた先にいたのはルポライターの冷泉という男でした。依然「女子大学生」として扱われているカナタ。何かの取材を受けるようです。




 その様子を見ていた、大学の同級生・荒木と井出は、遥の恋人ではないかと話しています。井出は興味がないようですが、荒木は遥が好きなようで、特に気にしている様子。

 そんな二人の元にやってくる駐在の富永。

 富永はスーツを着ており、茶化す二人。しかしここから、のんびりした空気が一変します。


 彼は数日前、朝の見回り中に、川で変死体を見つけてしまったのでした。




 事件のあった川では、朝倉と燈子が花を添えに来ています。

 亡くなった老医師のことを偲ぶ朝倉。どうやら燈子は、朝倉とともにこの町へ来たようです。




 場面は変わって、定食屋「だらい」にやってきた井出、荒木、富永。店長の田来は荒木のいとこのようで、富永が事件のことを話しています。どうやらその変死体は、脳が溶けていたようでした。




 しばらくして定食屋にやってきたカナタ。荒木は意を決して「遥」にデートのお誘いを申し出ますが、断られてしまいます。

 三人が帰ろうとしたとき、燈子が定食屋へやってきます。挨拶をしに来たということでしたが、バイトが始まるからとカナタは追い返そうとします。燈子は会ってほしい人がいると、朝倉を入れます。朝倉と「遥」は以前からの知り合いで、再会を喜びます。

 しかしそこで、カナタは自分の担当医がここで亡くなったことを知ったのでした。



 「芹沢遥」の中で会話するハルとカナタ。どこか沈んでいるカナタをハルは心配します。

カナタは何かを決したように、「ずっと一緒にいようね」と言うのでした。




▼②承:「カナタ」の正体

 翌日、井出と荒木がサークル活動のために大学の近くへきていると、朝倉と出会います。彼女は遥に関係する事柄を中心に、町を見て回っているようです。



 そこで、ルポライターの冷泉と鉢合わせます。井出は冷泉のことを知っているらしく、煙たがって去っていきました。


 朝倉は冷泉が遥の「記憶を消す薬物治療」に関して取材していることを察して、冷泉を警戒します。しかし彼は、治療時の遥を知る朝倉に取材を申し込みます。もちろん断る朝倉ですが、冷泉の「変死事件の第一発見者を知っている、連れて行っても良い」という発言に、同行することを決めたのでした。



 定食屋だらいに居る富永を訪ねた冷泉と朝倉。

 事件発見時のことを聞こうとするも、富永は冷泉を冷たくあしらいます。昔、田来を取材し、しつこく付きまとった過去があったようです。田来は一度PTSDになってしまい、外科手術を受けたものの、後遺症で一切の感情をなくしてしまったようです。元々恋人であった富永は、そんな田来に付きまとう冷泉を良く思っていませんでした。

 何の収穫もなく二人は定食屋を後にします。



 そして、朝倉は何故遥の周辺を調べているのか、冷泉に打ち明けます。

 死んだ老医師と町の関わりは芹沢遥しかないこと。老医師の性格上、完治した患者の元へ訪ねることはしないということ。だからこそ、芹沢遥の病気が再発し、会いに来たのではないかと思っていること。再発したのであれば早期の治療が必要だということ。

 しかし朝倉は再発したことに自信がないようです。なぜなら、芹沢遥のトラウマは「水」に深く関係しているからでした。彼女がPTSDや解離性同一性障害になったのは、父親の虐待が原因で、長時間冷水のはった風呂に放置されていたことから「水」を極度に嫌がるからです。

 冷泉はその話を聞いて、治療が必要かどうか疑っている様子でした。別に、治療しなくても幸せそうに暮らしてませんか?、と。




 その後は少し追い詰められた様子のカナタの生活が描かれます。

 唯一、今の遥のことを「カナタ」と呼んでいる理解者の井出と話しても、「先生とこの町の繋がりは僕だけなのに」と、怯えているようです。

 燈子と改めてバイト先の定食屋に行っても、「いつ帰るの?」と言ってしまいます。



 何となく燈子は、遥の異変に気付いていました。

 夜遅く、燈子は朝倉を呼び出し、自分が感じている違和感について話します。

「遥はずっとカナタだったんじゃないか?」




 朝倉は居合わせた冷泉に、そうだとしたら非常に危険で、早く治療しなければならないと説きます。納得のいかない冷泉に、朝倉はカナタについて話し始めました。

 カナタはIQが高く、社交性も非常に高い人格であり、人を欺くことも容易であること、そして、遥の父親を殺害した人格であるということを。


 運悪く、バイト帰りに冷泉と朝倉二人の会話を聞いてしまったカナタは、その足で井出の暮らす部屋を訪れます。

 井出に頼んで二人きりになったカナタとハルは、デートをしようという話をします。ハルはカナタの提案に喜んで、プラネタリウムに行きたいと言います。カナタは少し寂しそうに、続けて提案します。


「明日、デートしたら、そのままどっか行っちゃおっか。」


 ハルは不思議に思いながらも、「一緒ならどこでもいいよ」と、眠りについたのでした。




 次の日、朝倉はカナタが老医師を殺したかもしれないと、冷泉とともに、死因を富永へ聞きに行きます。富永にはあしらわれてしまいますが、カマをかけて、記憶を消す薬が使われたかもしれないことを突き止めます。

 治療を受けているふりをして薬を飲まなかったとすれば、大量に隠し持っていてもおかしくないし、ずっと治っていなかったことも頷けます。しかも記憶を消すその薬は、脳細胞を分解するうえ、希釈率が非常に高く、致死量を容易にコップ一杯の水に溶かせるのです。二人は段々と確信に近づいていきます。



 一方カナタは、朝になっても出発せずにいました。

 夜になって井出の家に荒木が訪ねてきたとき、カナタは表へ出てきて、荒木に「デートしても良いよ」と言います。井出はカナタが自首しようとしていることに気付き、止めようとしますが、彼の決意は固いようでした。

 カナタが井出に最後の感謝を述べていると、ハルが起きてきてしまいます。ハルはカナタの、「ハルは一人で生きなきゃいけない」という言葉を聞いて、混乱します。

 カナタはハルへ、もう自分たちは一緒にいれないこと、治療をしなければならないことを説得しますが、ハルは聞く耳を持ちません。どうしても一緒にいたいハルは、カナタへ、「そんなに死にたいんだったらもう出てこないで!」と言い放ってしまいます。




▼③転:変死体事件の真相

 次の日、ハルが目を覚ますと、カナタはいませんでした。


 井出はハルに近づき、やっぱり逃げようという話をしますが、呆けている遥が主人格の「ハル」であることに気付きます。

 ハルは自分が言ってしまったことを思い出し、カナタを探しに行くと言います。井出は外にはカナタはいないと説得しようとしますが、駄々をこねるように、ハルは町へ飛び出していってしまいます。



 一方の朝倉は、燈子から遥が帰ってきていないことを聞き、駐在所へ探してほしいと頼みに行っていました。もう子供じゃないんだしとあしらう富永に、遥には治療が必要だと説く朝倉。富永はその発言に、「普通に生活できてるから良いじゃないか。田来はもう治療も出来ないのに」と怒りをあらわにします。

 そこでハルを追いかけてきた井出が、助けを求めにやってきます。

 ハルは虐待を受けていたころから成長していないから、カナタがどこか外の世界にいると思って外に飛び出してしまった。でも川の近くにあるこの町は、水がトラウマであるハルには危険な場所だということを説きます。

 そうして全員で町を探索することにします。



 そして、ハルはというと、偶然荒木と出会い、定食屋だらいへ居ました。

 荒木はそこでデートの約束の話をします。ハルは、カナタが「荒木という本当の恋人が芹沢遥に出来れば、ハルに『カナタ』は必要ない」と考えていたのではないかと思います。

 荒木のせいでカナタが消えてしまう。ハルは「荒木を殺してしまいたい」と思います。


 そこへやってきた田来は、ハルの話を熱心に聞きます。泣きながら必死に荒木の殺害を仄めかすハルに、田来は異常な好奇心を抱き、自分が処方されて飲まなかった記憶を消す薬の瓶を、ハルに渡します。

「睡眠薬もいっぱい飲んだら死んじゃうでしょう。その薬もいっぱい飲んだら死んじゃうんじゃないかな」

 田来は感情を失ってしまったその反動で、異常な好奇心を持っていたのです。倫理観を凌駕するほどのその好奇心は、自分のいとこを殺すということも判断できないほどに膨れ上がってしまっていました。



 ハルは薬を飲ませるために、薬を大嫌いな水に溶かすため水場に立ちます。

 もう父親はいない、カナタが「殺してくれた」と自己暗示しながら。

 しかしハルは水に触り続けたことで失神してしまい、カナタが現れました。



 丁度その時、朝倉がやってきます。カナタはずっと皆をだましてきたこと、朝倉に老医師を殺したことを打ち明けます。

 殺すつもりはなかったけど、記憶を消して治療と言い張るのであれば、先生の記憶を消して同じことが言えるのか、消せば自分のことも忘れてくれると思った、と。

 カナタは観念して治療を受け入れます。ハルが目覚め、引き留めても、彼は譲りませんでした。




▼④結:治療後の「芹沢遥」

 それから半年後、術後の芹沢遥の元へ、朝倉が見舞いに訪れます。


 彼女が記憶を消された治療後――人格の統合後、ぽっかりと心に穴が開いたように、ぼうっとしていました。大学への意欲も、やりたいことも、何も分からなくなっていました。

 遥はずっと、思い出したがっていました。朝倉は必死に、「どこか行きたいところに連れてってあげるよ」と前向きなことを言いますが、遥はぼうっとしたままでした。



 朝倉がいたたまれなくなって席を外した時、遥は一人、「行きたいところ」を考えます。

「プラネタリウム。」

 遥が思い出して、カナタが現れます。

 記憶が肉体を凌駕し、二人が肉体を離れてしまうことで、物語は幕を下ろします。




 以上! 長いですね。反省……

 説明しなきゃいけないこと多すぎて猛省中です。これでも飛ばしたところあるのがやばいなって……。




〇中級編🐥

中級編は観たことのある方へ。見どころや台詞を振り返っていきましょう。



▼カナタとハル

 このお話は結構、大人たちが難しい話をして、主人公・カナタとハルはいちゃつき続けるって言うのが特徴でしたね。

 基本的にカナタがずっと、先生を殺した罪悪感にむしばまれているので、ただいちゃついてるだけだけど、終わりが近づいていく感じが、切ないポイントだったんじゃないかと思います。(そうだったら嬉しいなあ~~)

 やっぱりクライマックスの別れのシーンですかね、二人は。

***

ハル  カナタ。
彼方  ……。
ハル  カナタ、待って、行かないで。
彼方  ハル、……。
ハル  出てこないでって、言ったの、謝るから。行かないで。
彼方  ……ごめん。
ハル  何で謝るの。
彼方  ごめんね、ハル。
ハル  謝らないでよ。逃げようよ。
彼方  ……。
ハル  ねえ、今からでも大丈夫だよ。逃げよう。二人で。
彼方  ……。
ハル  一人にしないでよ。
 カナタはハルを抱きしめる。
彼方  ハル。
ハル  ……。
彼方  ハル。
ハル  何?
彼方  ……。
ハル  だから、何、? 何か、言ってよ。
彼方  ハル。

ハル  分かんないよ。言ってくれなきゃ、分かんないよ。

***

 このシーン、初めて二人が人前で喋るシーンでした。朝倉のビビってる顔が好きでした。

 「一人にしないで」「言ってくれなきゃ分かんない」等、別の人間だっていうことを主張する台詞が多いのも特徴ですね。今見ると……ちょっとしつこいかな、(笑)




▼田来と富永

 当時、この二人で一本書けよと言われたくらい作り込んでしまった(しまった)お二人。

 治療の後遺症で感情を失ってしまって「好き」という気持ちが分からない田来と、それでもまだずっと好きな富永さんのペアです。

 富永が遥の病気のことを知り、だらいへ行った一節が好きですね。

***

富永  遥ちゃんさ、治したんだって。
田来  え?
富永  病気。
田来  何の。
富永  精神的な、

田来  へえ。

富永  ……分かんないもんだね。完治した人って言うのは……

田来  それはそうなんじゃない。分かっちゃったら、治ってないでしょう。

富永  ……うん。

田来  落ち込んでる?

富永  ううん。

田来  そう?

富永  ……ちょっと、考えてる。

田来  何を。

富永  杏奈のこと。

***

 あと、あれです。クライマックスで富永が入ってきて、田来を抱きしめるところとか。

 この話に出すんだったら絶対もっとスッキリした設定の方が良かったのは重々承知で、ただ単体で見たらとても良いペアだったと思います。何か……。もったいないことした気持ちでいっぱいです。




▼井出ちゃん

 色々な人が色々抱えてる話なのでみんな語りたいは語りたいですが、最後。井出ちゃんです。

 カナタの唯一の理解者であり、幼馴染の井出ちゃん。普段はめんどくさがり屋なのに、遥のこととなるととても親身です。

 ハルと二人の会話、好きです。

***

ハル  どこかに、いるかもしれない。(と、外に出ようとする)
井出  待ってハルちゃん、落ち着いて、
ハル  離して。
井出  カナタは、外には、い、いないよ。
ハル  どうして?
井出  だって、……
ハル  ここにはいないんだもん。いるかもしれないじゃん。
井出  行っちゃ駄目だよ。
ハル  探すの。カナタがいないと駄目なの。離して。離してよ。
 ハルは井出の手を振り払って出ていく。
井出  ……。ハルちゃん!
井出がハルの後を追いかける。

***

 ハルときちんと対峙したことがあるのがカナタか井出ちゃんなので、何か、井出ちゃんの年下扱いみたいなものが、より切なかったな、っていう印象です。

 切ない話しかしてないですね。この作品の神髄は、割と切ないところをどれくらい切なく観れるかにあったような気がしています。


 以上、中級編でした~~




〇上級編🐓

ここからはちょっと細かいお話。裏話、裏設定など話していきます。



▼原案をご紹介

 2018年に上演されたビリー・ミリガンの毒薬ですが、原案を思いついたのが2013年5月でした。高校二年生の春の終わりですね。

 紆余曲折あって上演の形になった作品ですが、原案の『ハルカカナタ』をご紹介します。


  • 薬物治療で人格障害を治療した芹沢遥(ここは変わらず!)
  • 芹沢遥は高校生。カナタとハルはどちらも高校生まで成長しているが、ハルが内気でカナタが社交的。
  • 事件は起きず、同級生の一人から告白されたことがきっかけで物語が始まる
  • カナタはハルとの関係に限界を感じていて、治療することが良いと思っている。
  • カナタがハルに内緒で治療を始めてしまう
  • 段々と薄くなっていくカナタの存在を感じながら、ハルが治療に抗う話。


 こんな感じでした。何かこっちの方が面白そうじゃない?って思ってます。今。

 ちなみに原案を思いついたのは当時ハマってたトーマさんの『オレンジ』という曲を聞いたからです。


【動画はこちら】


 懐かしい~~~~何かこの構想になった理由が分かると思います。暇だったら聞いてみてください。普通にとっても良い曲です~~



▼楽しかったですね、とても

 いや、楽しかったんですよこの公演。他の公演でも楽しいことたくさん起きてるけど、何か、楽しかったな~と。大変なこともあったような気がするんですけど、賞レースでしたし、「勝たなきゃ意味ねえ」みたいなギラギラ感があって、楽しかったな~って。


 スタッフ賞とった制作・月館も、主宰対談とか企画してバチバチでしたしね。

 読み返してみたら、この時の9人中、7人劇団に残ってくれてるのは、嬉しいことですね~~。ありがたい。そんな頑張った月館は、舞台上ではこんな感じでしたけど。


 ハル役の小林桃香は、貧弱色白にしたかったのに、黒いし。

 絶対外でたくさん遊んでるじゃん。


 燈子役の川久保晴(右下)が、もう一つの人格作って遊んでたし。ハルとハレとか言って。あと須藤さんに教えてもらってサイレントマジョリティー踊ったりとか。


 音響操作、お姉ちゃんがやってくれたし。まじありがとう。


 楽しかったすね、何か。楽しかった~。




▼今読んでみて思うこと

 最後です。読み返してみて思ったこと、綴って終わろうと思います。


 や、とにかく説得力がねえなって、何だろう……物語全体に(笑)

 長らくこの作品の脚本から離れてたんですけど、読み返してみて、「説明が多いのに説得力ない」が率直な感想です。SFなわけなので、世界観とか前提の情報とか、共有されて然るべきなんですけど、結構諸々唐突だなって。唐突だから説得力ないし。……でも基本露と枕の設定の出し方、唐突かも? などなど、ちょっと色々思い返して反省する部分が多いです。

 てか記憶消去剤っていうのがネーミングとしてセンスないですよね。何か。

 あとは、登場人物がデフォルメされすぎなのも一端を担っているなって。朝倉も頑なだし、冷泉さんもちょっとアニメキャラっぽいし、富永も結構バカの一つ覚えマシーンだし。人っぽくなかったなって思います。大人たちがちゃんと大人してれば、デフォルメされたハルが浮き立って良いのに……。



 ただ着想自体は今でもとても大好きだし、芹沢遥の生き様みたいなものは、今読んでもハッとする部分があります。これが見せたかったんだなっていうのがすごく伝わるし。愛があるなあ……と。

 特にね、ちゃんとハルとカナタを分けてるのとかも。いつか、おっきな劇場でリメイクして、芹沢遥一人が演じるバージョンと、ハルとカナタ二人で演じるバージョンと作って、一気に上演したいななんて思います。ね~!





 以上です! 本日もお疲れ様でした。

 何か私がとてもためになってます。振り返れるのって楽しいなあ~~。


『ビリー・ミリガンの毒薬』も物販に並んでますから、気になった方は次回公演、いらしてくださいね!!



明日は旗揚げ公演にして『春俟つ枕』に並ぶ劇団問題作、✂露と枕旗揚げ試演会『桎梏ブランコ』✂について解説していきます~~!!

 ばいばいき~~~~ん

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